アルバム『Joana Amendoeira』にまつわる思い出

 ファドの演奏者の端くれ(本当に端くれ)として、ファドのレコードを紹介することはそれなりに責任を伴うことであるが、あくまで個人的な思い出を呟くコーナーということで大目に見て頂きたい。それゆえ、伝説的なアーティストの作品は紹介しないのだけれど。


 ジョアナ・アメンドエイラの『Joana Amendoeira』は2003年にリリースされた彼女の通算3枚目のアルバム。日本でも本アルバムは、ファドの若手注目株の実質的なデビュー盤として広く宣伝されたので、ファド関係者ならずとも、ワールドミュージック方面に関心のある方ならご存知かもしれない。このアルバムリリース直後、どういういきさつかは不明だが(国内プロモーターとマリオ・パシェコの思惑が一致したのだろうが)、アメンドエイラ自身、アルバム宣伝のため日本を訪れ、サイン会などを催したようだ。少し専門的に言えば、全編「古典ファド(ファド・カスティーソ)」を軸に構成された作品であり、過剰な装飾のないファドの純文学的な表現を楽しむことができる。


 なぜこのアルバムを取り上げたか。実は2003年、ポルトガルギターを手にしたばかりの私が、後先考えずにポルトガルに渡航した際、ジョアナ・アメンドエイラその人から直接買った思い出のCDなのだ。アルファマの「Clube de Fado」で、当時レギュラーだったアメンドエイラのステージを観て、新作だというこのアルバムをよく分からないままに買ったが、とても良いアルバムだと思う。「抱擁とともに」とされた彼女のサインが、私のただ一度のポルトガル渡航の記憶を、あのアルファマの夜の記憶を、いまだおぼろげに呼び起こすのである。

(旧サイト「続・ギタリスタ漫遊記」より転載)

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