When There Are Grey Skies

  ジャズファンを自称するには、相当偏ったジャズの聴き手である。というか、基本的に言えば、マイルス以外に通史的に聴いているアーティストもいないし、そもそも50年代はともかく、60年代以降ならオルガンジャズや日本のジャズミュージシャンの方を好んで聴いているくらいだから、言う人に言わせれば、もはやジャズファンですらない。そんな私だが、レッド・ガーランドのある種のブルースの演奏に関してだけは、ことさら愛聴している。いや、これもまた「ジャズファン」の人たちの冷笑の対象となりそうであるが、ともかくレッド・ガーランドのブルースだけは誰が何と言おうと譲れないのである。


  この『When There Are Grey Skies』は、レッド・ガーランドが一旦音楽活動から身を引く直前の1962年に録音されている。時代としてはすでにモードジャズ全盛のはずであるが、レッドは相変わらず50年代を引きずったスィンギーな演奏を展開している。ところが、である。その一方で、このアルバムに収録されたスローナンバーは、これまでに類のなかった滋味深さを備えているのである。 巷間まず名演として挙げられるM-3「セント・ジェームズ病院」も確かに悪くない。悪くないのだけれど、表現としては、M-1「Sonny Boy」やM-6「Nobody Knows The Trouble I've Seen」のようなスローナンバーの方が更に上を行っている。


  ここに、「急速な進化こそヒップである」とされた60年代初頭のジャズシーンから取り残されつつあった、レッド・ガーランドの到達した一つの境地を感じないではいられない。この静かな演奏に、誰にも解らない彼の心の内を聴きながら過ごす時間は、私にとって何物にも代えがたい癒しとなっている。それは取り残された者の悲哀ではなく、むしろ誇りそのものであったと私は想像するのだが、いかがだろうか。

(旧サイト「続・ギタリスタ漫遊記」より転載)

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